
概要
多くのSEOの失敗は、担当者の能力不足ではなく、彼らをサポートする組織の構造的な問題によって引き起こされます。長年のエンタープライズSEO経験を持つアッシュ・ナラワラ氏は、可視性を経営層レベルで統治する必要があると主張しています。
ガバナンスの欠如は、わずか数週間の空白であっても、数ヶ月にも及ぶ回復期間を必要とする壊滅的な損害をもたらす可能性があります。例えば、ある組織では、Google Search Consoleで2,200万ページが「現在インデックスされていない」という事態が発覚しました。これは、ファセットの組み合わせごとにページを作成するという過去の決定が原因で、10兆以上のページが生成されていたためです。
この問題はSEOチームやプロダクトマネージャーレベル以上の人間には見えていませんでした。このような構造的な失敗が、アッシュ氏が著書を執筆するきっかけとなりました。
彼は、ソフトウェア開発のケイパビリティ成熟度フレームワークから着想を得て、「可視性ガバナンス成熟度モデル(VGMM)」を開発しました。これは、SEO、コンテンツ、ウェブサイトパフォーマンス、アクセシビリティ、AIガバナンスの7つのドメインにわたるガバナンスを5つのレベルでパーセンテージスコアとして示し、C-suite(経営層)が状況を把握できるようにするものです。
「robots.txtの責任者がいるか」といった基本的な問いが、単一障害点(SPOF)となり、成熟度レベルの上限を決定することもあります。
経営層にガバナンスの必要性を訴える際、アッシュ氏は3つの論点を使います。第一に、システムが今後も安定して機能するかというシステムテスト。第二に、問題発生後の手直しコストは予防よりもはるかに高額であること。特に、AIシステムが関わる失敗の修正はより困難です。そして第三に、ガバナンスは速度を妨げるのではなく、むしろ予期せぬ大きな問題による遅延を防ぎ、最終的により迅速な行動を可能にする、という点です。
SEOをインフラとして捉え、AIを介した発見を新たなリスクカテゴリとして提示することが重要です。ブランドの可視性は、既存のトラフィックやランキングに変化がないまま静かに侵食される可能性があります。例えば、Bing Chatが競合他社を推奨し、自社ブランドを推奨しない問題の原因が、Common Crawl bot (CCBot)のブロックであったケースもあります。
アッシュ氏は、経営層が問うべき4つの質問として、「戦略レベルでの可視性パフォーマンスの説明責任は誰が負うのか?」「その人物は十分な権限を持つか?」「可視性レポートは、今日のパフォーマンスと明日の構造的健全性を区別して経営層に届いているか?」「AIを介した可視性をガバナンス事項として扱っているか、それともマーケティング部門のテクノロジーの目新しさとして見ているか?」を挙げています。
最後に、「リーダーシップテスト」として、組織が個人の努力ではなくシステムに依存することの重要性を強調しています。可視性を経営会議の議題に含めることで、SEOと外部の可視性が重要なインフラ事項であるという意識を経営層に定着させるべきだと提言しています。
解説
本記事は、SEOの課題を組織のガバナンスという視点から捉え直す、非常に示唆に富む内容です。
多くの企業でSEOはマーケティング部門のタスクとされがちですが、「SEOの失敗はSEO担当者のせいではない」という冒頭の主張は、問題の根本が個人のスキルではなく、組織全体のシステムにあることを浮き彫りにします。特に、大規模なサイトでは、インデックスされない膨大なページ数や、非効率なクロールといった問題が表面化しにくく、ガバナンスの欠如が致命的な結果を招くという具体例は、現実味を帯びています。
「可視性ガバナンス成熟度モデル(VGMM)」は、これまで曖昧だったSEOの責任範囲や健全性を定量的に評価できる点で画期的です。C-suiteに対して「ガバナンススコアが20%」と報告できることで、経営層は問題の深刻さを具体的に認識し、対応を促すことができるでしょう。
特に注目すべきは、「AIを介した発見」という新たなリスクカテゴリの提示です。従来の検索ランキングやトラフィックデータだけでは捉えきれない、LLM(大規模言語モデル)によるレコメンデーションの変化や、サイレントなブランドの可視性の浸食は、新たな経営リスクとして認識されるべきです。CCBotのブロック解除でブランドの推奨が開始された事例は、技術的な設定がAI経由の可視性に直接影響を与えることを示しており、ガバナンスの重要性を一層高めています。
SEOを単なるマーケティング活動ではなく、資本資産としてのインフラと位置付ける考え方は、経営層がSEOへの投資を正当化し、長期的な視点で取り組むための鍵となります。また、「個人の英雄的努力ではなくシステムに依存する」というリーダーシップテストは、SEO担当者が離職してもその知見や成果が失われないような組織的な対応の必要性を示しています。これは、属人化しやすい日本のSEO業界においても非常に重要な視点と言えるでしょう。
可視性を経営会議の議題に加えることは、すべての組織にとって、変化の激しいデジタル環境で生き残るための第一歩となるはずです。企業規模に関わらず、今日のSEOは経営課題であるという認識を持つことが求められます。
- 掲載元: Search engine journal
- 公開日: 2026-03-26T13:29:39+00:00